- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
日本の医療制度とアメリカの医療制度は,実施面において歴史的にかなりの違いがありますが,その大きなもののひとつは,日本においてはclosed hospital systemをとっているのに対して,アメリカではopen hospital systemをとっていることです。第2の違いは,アメリカでは全国的な大規模な医療検査会社制度が非常に広まっていて,一般の開業医でも,ふつうの教科書に出ている程度の医療検査ならばどんな高度な検査でも,血液,尿等の検体を検査室に送るだけで,24時間から数日以内に結果を知ることができ,また特殊な検査等の必要な時は多くの大学病院の検査室のserviccを一般の開業医が簡単に使用出来るということです。第3の違いは,歴史的に確立されたresidency systemのため医師の担当分野における知識技能のlevelが平均化しており,一般開業医も医科大学教職にある医師と同様な医療結果が社会的に要求されており,設備の良い病院で行うべき手術を設備の不十分な自分の診療所で行った場合,社会的,職業的批判が厳しいことです。第4は,過去において医療保険が大病院における入院治療を優遇し診療所における医療に対する医療報酬を冷遇してきたことです。第5は,アメリカでは最近医療過誤に対する訴訟が異常に増えたため,医師が第3の理由と同じ理由で少しでも問題の予期される医療行為は病院で行う傾向があるということです。
このような歴史的社会的理由により,アメリカの医療殊に外科的医療においてはofficeは単に問診,診察,投薬の場であって複雑な治療や外科的治療は全て病院で行うというのが慣例でした。同様に,産婦人科医のofficeも問診を行う応接室,簡単な診療治療室と待合室,救急処置設備ぐらいを備えているのが過去においては普通であったのですが,最近殊にここ十数年における社会的政治的技術的変化により,ここ数年の間にoffice治療の産婦人科医の重要性が急に高まってきました。その理由は,第1に人件費の高騰,医療機器の高度化による経費の高騰,その他による入院費の高騰。第2は,治療を必要とする人口増加,殊に人口の高齢化,エイズ患者その他の問題等による医療費の国民全所得に対する割合の急増に対して政府が外来治療を組織的に奨励し始めたこと。第3は,多くの医療保険会社が政府の指示その他の理由によって入院治療に対する支払いを少なくし,一方外来治療に対する支払いを増やしたこと。第4は,最近の医療知識,医療技術,医療機器の急速な進歩によって,以前には考えられなかったような検査,治療および手術が医師のofficeで簡単かつ安全に行うことが出来るようになったこと等です。
Copyright © 1990, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.