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はじめに
Poly(ADP-ribose)polymerase(PARP)阻害薬の卵巣癌治療への導入は期待を集めている.2005年にPARP阻害薬がBRCA1もしくはBRCA2の変異(BRCA1/2変異)をもつ細胞に選択的に細胞毒性をもつことが示され1, 2),癌治療における合成致死(synthetic lethality)の代表例の1つとなった.DNAの相同組換え(homologous recombination:HR)による2本鎖修復ができない細胞において,PARP阻害薬はDNAの1本鎖修復を阻害するため,結果的にDNA修復ができず細胞死に至ると考えられている.2014年12月にPARP阻害薬は米国食品医薬品局(FDA)と欧州医薬品庁(EMA)に承認され,本邦においては2018年1月に薬事承認がなされた.
高悪性度漿液性癌(high-grade serous cancers:HGSCs)はDNA2本鎖修復機構である相同組換えの異常(homologous recombination deficiency:HRD)を約50%に示し,BRCA1/2の生殖細胞系列変異と体細胞系列変異の合計が約30%,その他のDNA修復経路の異常が約20%を占める3).類内膜癌,明細胞癌,癌肉腫においてもHGSCsと同程度にHRDがあると報告されており4),PARP阻害薬の効果が認められる可能性がある.第Ⅱ相試験ではあるがStudy 19においてオラパリブはBRCA1/2野生型に対しても無増悪生存期間(PFS)を延長する効果を示し5),2017年8月にFDAによりBRCA1/2変異の有無にかかわらずプラチナ感受性再発卵巣癌に対するオラパリブの使用が承認された.第Ⅲ相臨床試験においてニラパリブはBRCA1/2変異,HRDがない患者に対しても有効であり,臨床現場においてPARP阻害薬がすべてのプラチナ感受性再発HGSCsに有効であることが示された6).今後はPARP阻害薬を化学療法もしくは血管新生阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬などの分子標的治療薬とどのように併用していくかも重要なテーマである.
本稿ではPARP阻害薬について臨床試験の成果をもとに本邦における導入とその今後について概説する.
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