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母体血清マーカー検査とは,母体血清中の胎児あるいは胎盤由来ホルモン,または蛋白質を血液生化学的に測定し,胎児が21トリソミー,開放性神経管奇形,18トリソミーに罹患している確率を算定する方法である.1977年に母体血清中のα-fetoprotein(AFP)が胎児無脳症や胎児開放性神経管奇形の場合に高濃度となることが最初に報告され1),次いで1984年に胎児染色体異常(常染色体トリソミー)のときに母体血清AFPが低値であることが報告された2).その後1987年,1988年には胎児染色体異常と母体血清human chorionic gonadotoropin(hCG)高値,unconjugated estoriol(uE3)低値との関連が明らかになった3, 4).以降AFPとhCGを組み合わせたダブルマーカー検査,AFP,hCG,uE3を組み合わせたトリプルマーカー検査が登場し,さらに2003年にはトリプルマーカー検査にinhibinAを加えたquadruple testが報告された5).quadruple testは現在クアトロテストTMとして商品化されている.これらの血清マーカー値は妊娠中期での報告であったが,1993年には妊娠9〜11週において胎児21トリソミーのときにpregnancy-associated plasma protein A(PAPP-A)が低値であることが報告された6).PAPP-Aにfree β-hCGを加え,nuchal translucencyの値と組み合わせて,妊娠初期血清マーカー検査(コンバインド検査)として使用されている.
日本においては1994年に母体血清マーカー検査が海外より導入された.しかし急速に普及した一方で,この検査に関する事前の説明が不十分であることから妊婦に誤解や不安を与えていることが社会問題となり,1999年に「厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会」により「母体血清マーカー検査に関する見解」が発表された7).この見解では母体血清マーカー検査の問題点として,①妊婦が検査の内容や結果について十分な認識をもたずに検査が行われる傾向があること,②確率で示された検査結果に対し妊婦が誤解や不安を感じること,③胎児疾患の発見を目的としたマススクリーニング検査として行われる懸念があること,の3点が挙げられている.1999年当時は「わが国においては,専門的なカウンセリングの体制が十分でないことを踏まえると,医師が妊婦に対して,本検査の情報を積極的に知らせる必要はない.また医師は本検査を勧めるべきではなく,企業等が本検査を勧める文書などを作成・配布することは望ましくない」と記されている.以降,この見解に準拠して検査が施行されてきたため,母体血清マーカー検査数は増加せず2000〜2002年は年間1.5万件を推移することとなった.続く2003〜2008年は年々微増傾向をたどり,1.8万件まで増加,2011年にはさらに増加し2万件程度となり,現在国内での実施数は年間2.5万〜3万件程度と推定されている.
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