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哺乳動物精子が卵子と受精するためには,あらかじめ受精能獲得1)2)および先体反応3)4)という一連の機能的・形態的変化を行うことがよく知られている。機能的変化である受精能獲得を受けた精子がhyperactivationと呼ばれる特異な尾部運動を示すことが,ハムスターで最初に証明された5)。その後,このhyperactivationはイヌ,モルモット,マウス,ウサギでも証明されているものの,現在のところヒトでは明らかにされていない。受精能獲得を受けた精子は次に形態的変化である先体反応を起こす。先体反応は先体外膜とそれに接している原形質膜が癒合し,次いで胞状化,離脱する。この結果hyaluroni—dase,acrosin,esteraseなどの先体内容物が放出され,先体内膜が露出する(図1)。これら先体反応は精子が卵子の透明帯貫通および形質膜との融合に不可欠な変化である。したがって受精時のヒト精子先体反応の発生を知ることは受精を理解する上で必要かつ重要なことである。
ヒト精子先体反応は,従来,透過電顕により観察されてきた。これはヒト精子が光学顕微鏡で観察するには小さすぎるためである。したがってヒト精子についての研究は他の哺乳動物よりも遅れていた。1980年代になり光学顕微鏡レベルでのヒト精子先体反応の判定法として,fluoresceinated lectinを使った方法6)(TalbotとChacon,1980),Triple stain法7)(TalbotとChacon,1981),monoclonal antibodyを使ったindirect imrnunofluores-cenceによる方法8)(Wolf et al.,1985)が報告された。本邦では現在多くの研究者がTriple stain法を採用している。しかしながらこれらいずれの方法もいくつかの理由で世界的に広く受け入れられるにはいたっていない。TalbotとChaconによるlectinを使った方法ではlectinにRicinis communis agglutinin-Ⅱ(RCA-Ⅱ)を使用している。RCA-Ⅱは入手が容易で,そして方法も迅速,簡便である一方,非常に毒性が強い。またこの方法には生存精子と死滅精子を区別する手段をもっていない欠点がある。なぜならば死滅精子の多くは変性による先体反応を起こしており,生存精子の生理的先体反応を評価するにはこれら死滅精子は除外しなければならない。1986年,Crossら9)によりflouresceinated lectinとpolyclonal antisperm antiserumを用いた方法が報告された。そこで本欄ではこのCrossらの方法の紹介と,この方法が透明帯除去ハムスター卵子を用いたsperm penetration assay(SPA)時のヒト精子に対して先体反応を知りうるのに有用な方法であるばかりでなく,精子と卵子の相互作用を知る手段となりうることを報告する。
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