特集 話題の感染症
ATLと母児感染対策
一條 元彦
1
,
安藤 良弥
1
,
森山 郁子
1
,
斉藤 謙介
1
,
古木 和夫
1
,
垣本 和宏
1
Motohiko Ichijo
1
1奈良県立医科大学産婦人科学教室
pp.921-923
発行日 1988年10月10日
Published Date 1988/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409207877
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成人T細胞白血病(adult T cell leukemia,ATL)は,1977年高月ら1)により初めて報告されたもので,多くは40歳代以上に発病し,急性型では極めて予後不良のため凡そ2年以内に死亡する。主要症状は,リンパ腫,肝腫,脾腫,高カルシウム血症,皮膚紅斑,丘疹,結節などである。この他,従来T-CLLと呼ばれていたものに慢性型ATLがある。また白血球増多を伴っていないが,明らかにリンパ球の形態異常を認める「くすぶり」型とか,HTLV—Ⅰ associated myelopathy (HAM)など種々の病態が知られている。
ATLは地球上限られた地域に分布し,カリブ海沿岸地域,西インド諸島,アフリカ,日本において多発するのが不可解な点である。日本における分布は日赤の昭和61年11月〜63年2月中の献血者の検査成績に基づくと,ATLの病因ウイルス(HTLV—Ⅰ)キャリア率は北海道1.38%,東北2.19%,関東1.38%,北陸・東海1.29%,近畿1.75%,中国・四国1.52%,九州・沖縄5.82%で,南西日本に高頻度に見られる。ATLは,ウイルスによる発癌が人類史上初めて明らかになった疾患である。ATLの病因ウイルスHTLV-Ⅰは形態学的にはC-type retro virusに属し2),逆転写酵素をもつRNAウィルスである。一般にHTLV-Ⅰは循環血液中にfree virusとしては存在せず,T-cellのDNA中にプロウイルスとして組み込まれている。それゆえにHTLV-Ⅰの感染成立には,HTLV-Ⅰ感染細胞による細胞接触が必要であり,free virusによる感染は通常起こりえない。
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