新しい視点をさぐる リプロダクションと母体適応
母体適応と妊娠不定愁訴
長田 宏
1,2
Hiroshi Osada
1,2
1川崎市立川崎病院心療産婦人科
2獨協医科大学産科婦人科学
pp.582-584
発行日 1978年8月10日
Published Date 1978/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409205876
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人類がこの世に誕生して以来,限りなく無限に近い年月を経てきたが,種の継承としての生殖の営みは昔と変わることなく過去,現在そして未来へとたゆまずに続けられてゆくことは疑いの余地もない。この種への奉仕へのにない手である女性,偉大な生命を生みだす女性を,一種の女系社会であった古代ギリシャの社会では,その生殖力,生産力を敬い,たたえる社会でもあったという。現代においても本人自身が妊娠を望み,周囲もそれを祝福するというごく自然な流れの中で女性は女性の役割りにためらうことなく従うことになる。しかし妊娠というごく生理的な現象を妊婦自身がどう受けとめているかをあらためて考えてみると,一面不可解な,神秘的な事柄であることに気づく。妊婦は自分の精神的な体験をあまり話さないといわれるが,それは多くは無意識的なこととして,本人は意識的には気づいていないことに基因するのであろうか。また妊娠中にさまざまな感情の易変性,情動障害,身体症状が起こるのも,妊娠によって招来される内分泌環境の変化,自律神経因子あるいは心因を力動的に交錯させ,さらに社会的,教育的,道徳的な人間社会の規約の中に起こる現象が妊娠であるからとも理解される。そこで妊婦自身がどのようにして心身ともに妊娠に適応してゆくのかは,われわれ産婦人科医にとって重大な関心事になる。
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