研究へのいざない・4
サルによる生殖実験法(その1)
大島 清
1
Kiyoshi Oshima
1
1京都大学霊長類研究所
pp.615-623
発行日 1977年7月10日
Published Date 1977/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409205654
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サルは,どれでも生殖の生理がヒトに似ていると思ったら大まちがいである。サルには類人猿のゴリラ,チンパンジーから食虫類に毛の生えたようなツパイに至るまで約200種に及ぶ(図1)。ツパイ(図2)の子宮はラットなみだ。かといってチンパンジーは大型すぎて高価である。多産で知られる南米産のマーモセットやタマリン(図3)は子宮胎盤系がヒトに似て,発情周期が16日で,黄体期のProgesteroneの血中レベルが妊娠なみに高い。使っておもしろそうだが小さすぎて頻回採血や胎児内分泌学には不向きである。中小型のリスザルは生理学や年周期の実験に使われることが多い。しかし何といっても中型で入手し易く,飼育や採血も容易で,ヒトと類似した月経周期やホルモンレベルを持つマカク属のアカゲザル,ニホンザル,ブタオザル,ベニガオザルなどが生殖生理の研究に使われることが多い。いずれも季節的な繁殖期を持っているが,中でもニホンザルの夏季不妊がはっきりしている。したがって繁殖期—不妊期の移行期を思春期,更年期などの時間生物的な生殖リズムの研究や,不妊,避妊の基礎的な研究に利用することができる。中大型のヒヒはここ数年来ひろく欧米で使われている。年間繁殖可能であり,性皮が周期的に腫脹を繰り返すし,大きなメスは20kgもあり頻回の採血にも耐える。中でもエチオピアに棲息するゲラダヒヒは胸にも性皮があって性周期を識別しやすいが,入手はきわめて困難である。
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