サルとヒトの比較産科学・11
サルの妊娠(Ⅰ)
大島 清
1
1京都大学霊長類研究所
pp.61-75
発行日 1981年1月25日
Published Date 1981/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205806
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1.まえがき
今まで私たちは,いろいろなサルのお産や子孫を殖やす,つまり"生殖"の生理的な基礎を勉強し,なぜヒトが発情期を喪失したかということまで考えてきた。本号からは"性"と"お産"の間に介在する重要な生理的現象"妊娠"について,特にサルを中心にして考えてゆくことにする。妊娠となると,排卵・受精といった発生の初期過程を省略する訳にはゆかない。はじめにサルの排卵をヒトと比較し,今流行(はやり)の人工受精,体外受精にも話を広げ,精液の性状についても,おもな哺乳類について比較するといったことを試みるつもりである。
つい最近,ある獣医から牛の話を聞いた。牛の妊娠期間は210日。21日ごとに発情し,排卵させておいて凍結保存した精液で人工受精させる。仔を産むと乳牛は採乳に利用される。牛のほとんどが性の喜びを持たない。家畜化したものの宿命といえよう。牛は21日ごとの排卵期に同期して発情し,ホルモン支配を強く受けている点,下等哺乳類と同じである。違うのは,妊娠が人間のために作られるということだ。しかし,作られた妊娠でも,現象そのものは普遍的である。排卵・受精・妊娠中の薬物投与規制が強化されているのは,そのためである。それは人間のために作られた食肉が,疾病の誘引にならぬための工夫である。
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