サルとヒトの比較産科学・5
サルのお産(Ⅳ)
大島 清
1
1京都大学霊長類研究所
pp.335-344
発行日 1980年5月25日
Published Date 1980/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205705
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10)4足歩行から2足歩行へ──難産への道
人類の最大の特徴は2足歩行である。現在2足歩行する動物は鳥を除いて人類だけだ。4足歩行から2足歩行になるまでにおよそ7000万年を要したといわれるが,その間に腹部の内臓を支えるために,ヒトの骨盤は広い盤状を呈するにいたる。まっすぐだった産道はこのために湾曲し,難産への一歩を踏み出す。本誌第3号末尾の図をここでもう一度みていただきたい。類人猿であるチンパンジーでは内臓をぶらさげるため,ヒトとちがって,骨盤は長く棒状になっていることがお分かりであろう。
類人猿を含めて,4つ足か不完全な直立姿勢しかとらないサルの骨盤は全体として細長い。特に腰の両わきにある腸骨が細長くてヘラのような形をしている(第3号の図,および図1参照)。これに対して完全に直立姿勢をとるヒトの骨盤はひろく,問題の腸骨は扇形に変ぼうする。同時に,たとえば,大坐骨切痕や上前腸骨棘のような独特のきれこみや突起が生じてくるのである。これは直立にともなう脊柱と下肢との角度の変化(第3号,図3参照)や,下肢を動かす筋肉の作用の変化などによるものである。
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