特集 産婦人科薬物療法の基礎知識
薬物の効果と判定
鈴木 哲哉
1
Tetsuya Suzuki
1
1慈恵医科大学薬理学教室
pp.975-980
発行日 1972年11月10日
Published Date 1972/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409204704
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
Ⅰ.post hoc, ergo propter hoc.
最初に古きよき時代の中国の話をひとつ紹介しよう。ある若い見習い医者が珍しい処方,新しい薬を求めて全国をめぐり歩いていた。とある山中を旅行しているときのことだが,遙かかなたから追いはぎの一隊がやつてくるのに気づいてあわてて物陰に身をひそめた。追いはぎは睾丸の大きな男を引きたててきたが,ちようど若い医者の隠れているあたりまで来たときに,いきなりひとりが大刀を抜いて男の首をスッパリと斬りおとしたのだ。するとまことに不思議,男の大睾丸がすうつと縮んでしまつたではないか。かの医者はこの光景を見て感嘆久しうしていたが,やがて懐中の手帳を取り出すとこう書きいれたものである。「大睾丸の治療法,首をはねること。」ところで私としてはこんなくだらない話を書いた理由をこれから説明しなければならない。
最近製薬業界は薬の再評価という問題で悩まされている。再評価というのはこれまで薬として認められてきた薬,あるいはその薬にたしかにあるとして認められてきた効能などが本当に正しいものであつたかをもう一度調べなおそうということであり,このことは取りも直さず今までの薬の評価のなかにはいい加減なものがあつたという疑いがあるということなのである。
Copyright © 1972, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.