落穂拾い・12
生命の神秘?「長期冷凍保存精子の受精可能事実」に思う,驚嘆すべき「古蓮実の発芽性」
安藤 畫一
pp.642-643
発行日 1966年8月10日
Published Date 1966/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409203534
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まえがき
私は本誌前々号(第20巻第6号)の『落穂拾い』欄に「人間生殖に拾い得た珍奇な落穂」と題して−79℃の超低温に,最長862日に及ぶ長期にわたり,凍結保存した精液を+37℃に加温して非自然(人工)授精に使用し,今日まで60例におよぶ正常生児を得た慶応大学婦人科,家族計画相談所(主任・飯塚理八)の驚嘆に値する研究を発表して,人間精子にのみと過信した「生命の神秘」と結論し,この神秘の片影でも知りたいとの念願で,主として慶応の北里図書館において,比較的執拗に文献を渉猟したが,遂に失望に終つた。
しかるに前月(5月)中旬に懐しい旧友達との2回に及ぶ会談のため岡山に出向き,思い出の後楽園をくまなく散歩した際に,延養亭の南方に接する低地の小池を渡る屈折橋の左右全面に,美麗に生育しつつある蓮葉の群像を注視した。それは案内の友人笠井経夫君からの説明があつたからである。なるほど全面一様ではあるが,蓮葉の大きさが左手(東側)の小池と右手(西側)の小池とで明らかに差異があり,一様に左に大で右に小なることであつた(第1図参照)。笠井君により,左方(東)は「普通の新蓮実の発芽であり」,右方(西)は「約1,000年前の古蓮実の発芽であること」が説明されて,特に私1人は暫時の後に大なる衝撃を感じた。それは「1,000年前の古蓮実の発芽」という驚異の実況を直視したためだけでなく,既述した「精子に直観した神秘性」を思い合せたためである。
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