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男性不妊のスクリーニング検査として精液検査が行われている。しかし通常の精液検査(精液量,精子数,運動率,奇形率など)で異常がないからといって必ずしも男性不妊原因が否定されたことにはならない。なぜなら,最も大切なことは,腟内に射精された精子が受精の場である卵管膨大部に到達する能力を有しているかどうかということと,成熟卵に出会って受精させる能力があるかどうかにあるからである。精子が卵管に到達したかどうかを調べることは大変困難であるが,子宮頸管粘液の通過性に関してはHuhnerテストまたはMiller-Kur—zrokやKremerテストで検討することが出来る。しかし,精子受精能に関しては従来これを調べる方法が全くなく,単に妊娠に成功したかどうかによってしか判定出来なかった。
1976年,Overstreetら1)は,初めて死体から採取したヒト卵を用いて in vitroでの受精実験系を確立し,精子の透明帯貫通性を指標として不妊男性の精子受精能について検討を加えた。受精に際して精子は受精能を獲得(capacitation)し尖体反応(acrosome reaction)を起こす必要があるが,死体卵を用いた受精系でもこの2つの反応を終了した精子のみが透明帯の貫通性を示すことより,この方法を精子受精能検査として用いることが出来るわけである。しかし,実際にヒト卵を常時用意することは非常に困難で,この方法を臨床検査法とすることは出来なかった。同年,Yana-gimachiら2)は透明帯を除去したハムスター卵とヒト精子の融合に成功し,ヒト精子の受精能検査に利用出来ることを見出した。卵の透明帯表面には精子に対する受容体が存在し,種の選別を行っているため通常では他種属の精子とは結合せず受精が起こらない仕組みになっているが,透明帯除去ハムスター卵ではヒト精子の侵入を許し,侵入精子頭部の膨化現象の起こることが見出された。この反応系でも受精能獲得後の尖体反応精子のみが卵への侵入を示すことから,透明帯除去ハムスター卵を用いたヒト精子の受精能検査が可能となったわけである。ハムスター卵はホルモン注射による過排卵処理で一度に約40個ぐらい採取することが出来,本法を臨床検査として用いることは充分可能と考えられる。
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