講座 手術と適応
5.子宮脱・腟脱の手術
真田 幸一
1
1三楽病院産婦人科
pp.494-495
発行日 1963年6月10日
Published Date 1963/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409202834
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子宮脱治療の原則
女性の骨盤は,腹腔の最下端にあつてこれを閉鎖し,腹腔内諸臓器を支持する働らきとともに,いつたん妊娠すれば,かなりの大きさの胎児を通過せしめて,分娩という大きな排出作用を営なまねばならぬという,一見相反する二つの使命をともに有している。従って女子の骨盤においてはその最下端を形成する臓器は骨や軟骨ではなく,子宮という筋性器官であり,これを基靱帯をはじめとする子宮諸靱帯が牽引して,その下降を防いでいるわけである。長年月にわたる腹圧や頻回の分娩などが原因となつて子宮が下降すると,最早や子宮は腹腔下端の閉鎖装置たる機能を失ない,諸臓器の脱垂殊に膀胱や直腸の脱が起り,いわゆる子宮脱(下垂)なる疾患が成立するわけである。かかる子宮の下降には,前述の牽引装置の他に骨盤底の諸筋群が,支持装置として密接に関与してくるのはいうまでもない。従って,牽引装置と支持装置のいずれが疾患の成立に主役を演ずるかという議論は別として,子宮脱の手術を行なう場合には,この両者をともに補強する必要がある。
子宮脱の根本的治療方針は,この下つた子宮を引き上げるとともに周囲の支持装置を補強し,子宮にふたたび腹腔の閉鎖器官としての位置形態を復元せしめ,随伴する障害を完全に消失せしめるとともに,さらに理想的には,排出器官としての機能をも保たしめることにある。
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