特集 思い出・追悼論文
追悼論文
子宮頸癌根治手術後におこる排便障碍
藤井 純一
1
1長崎大学医学部産婦人科学教室
pp.475-482
発行日 1954年8月10日
Published Date 1954/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409201082
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第1章まえがき
1921年岡林教授が創始した広汎性子宮全剔除術が,子宮頸癌の手術的療法として最良のものである事が認められた今日,術式及び之が合併症に就いては多くの研究がある。殊に術後合併症としての尿閉,尿管瘻,骨盤旁結合織炎等に就いては,術式の改良,抗生物質の使用,或は諸種理学的療陵の発表があり,この分野には業績が挙げられている。しかし独り術後合併症としての直腸障碍則ち排便障碍に就いては殆んど記載されたものが見当らない。この排便障碍は退院後も永続し甚しきに到つては術後3年余を経てなお頑固な便秘に悩むもめもあり,左程高度でなくとも大方の患者が再診に際し診える後胎症の一つである。本症は他の術後合併症の様に直接生命をおびやかす様な重篤な症状を呈さない事,排便の生理そのものが色色の要素によつて左右されやすく,例えば自律神経系の作用のみによつて営まれるものではなく或程度迄自己の意志により支配出来得る様に複雑な行程を経るために臨床的に観察し難い点がある事等によつて,ややもすれば等閑に付されるきらいがある。
一般に広汎性根治乎術を施行した患者は大多数に於て腰椎蹴酔の作用が消失してからも他の一般開腹患者に見られない様な頭固な便秘が継続し,灌腸,下剤の使用等により始めて排便を見る事が少くない。
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