特集 思い出・追悼論文
想い出
恩師清水由隆先生の想出
岡本 英雄
1
1元長崎医科大学
pp.459-461
発行日 1954年8月10日
Published Date 1954/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409201078
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昭和29年3月20日,全く青天の霹靂の如く先生の訃報に接し,どうしても信じられない不安と不吉な気に襲われたのは,小生ばかりではありますまい。恐らく先生を知る人,先生の門弟の中で,最後の開腹手術を受けられた事を知つていた人は,指で数える程しかいなかつたと信じます。門弟の1人で先生の手術の事を聴き遠路駆け付けた人が,先生の入院室に入るや否や「君は何しに来たのかい。誰に聴いて来たのかい。さつさと帰つて呉れ給え」と叱られたと言う挿話もあります。最後の手術を受けられる時も平常と少しも変られず,恢復に絶対の自信を持ち,門弟の人々にも出来る丈心配を懸けまいと決心しておられた模様が,髣髴として伺われる次第であります。
憶えば3年前,佐世保市で,門弟の有志が集つて「先生の古稀の祝」の宴を催し,さゝやか乍ら一晩ゆつくりと懐旧談に花を咲かせた事がありました。其の時,先生は生れて初めての佳き日だつたと終始笑顔で,どんな話がとび出してもニコニコして,眼底に涙さえ宿しておられた温顏が,今だにありありと想い出され,又其が最後の拜眉の栄だつたと思いますと,全く断腸の想が致します。先生は其の時如何にも矍鑠として,極めて愛想よく門弟等と寛いでおられましたが,或は今日の事あるに備えてか,御自分の大きな立派な御写真に墨で署名して人1人1人に御分配下さつたので御座いました。
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