境界領域 外科から
乳腺炎治療上の2,3の問題に就て
山瀨 馨
1
1順天堂醫科大學外科
pp.328-333
発行日 1950年8月10日
Published Date 1950/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409200377
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
乳腺炎は化膿性疾患としては可成多い疾患で,通常外科外來では大體瘭疽に次いで多く見られるものである.然し乍ら其の症状は一般に緩徐であつて多くの場合外來治療で足りるので其の治療法に就ては今日迄餘り考慮が拂われて來ながつた様である.最近ペニシリン及びサルファ劑が多く使用される樣になつてから其の治療法も多少改善され,特に熱性膿瘍に封する尿素の注入療法が考案され,ヌペニシリン或いは兩者の混合注入療法其の他二,三の變法の提唱されるに至つて乳腺炎の治療も從來とは大部趣を異にして來た様に思われる.然し之も乳腺炎が之等の新しい治療法を試みる上に於て最も適當した熱性膿瘍であるからと言うに止どまつて,乳腺炎の治療の本質的な問題に就ては依然として等閑視されておると言つても過言ではないと考えられる.元來此の疾患の特徴とする處が其の殆んど全部が授乳中の婦人に見られると言う事,病原菌の大部分がペニシリンに敏感な黄色葡萄状球菌であると言う事,又母乳自體が病原菌にとつて優秀なる培養基であると言う事及び乳腺が其の組織學的構造上よりして病巣が容易に擴大されると言う事等を考慮に入れたならば其の治療方針に就ても,より一層愼重であつて然るべき點が多々あると思う,余は以上の觀點よりして最近扱つた乳腺炎の患者の治療に就て二,三檢討し,それに關連して少しく私見を述べて見たいと思う.
Copyright © 1950, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.