- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
今年の夏は,地デジ移行問題と節電対策で過ぎようとしています.地デジ化のほうは数年前から分かっていたはずですが,いざ始まるとさまざまなトラブルが起きています.これまでのようにラジオでテレビ音声が聞けなくなったことは,特にこれを情報源としていた視力障害者の方々には,改めて深刻な問題となっており,監督省庁や放送局宛に,何とか聞けるようにしてほしいという強い要望が出されています.3月11日の震災の際,私は東海道新幹線の車内に閉じ込められましたが,たまたま持っていた携帯ラジオで聞けた生々しいテレビニュースで状況が判断できたことで,迅速に各方面へ事後対応連絡を行った経験がありますので,その有用性は十分に理解できます.
節電への要請は,当初の関東,東北地方だけでなく,順次関西や九州地方にも広がり,同時に電力業界の体質も問題視されるようになってきました.政府は世論の後押しもあり,原子力発電への依存度を減らすという180度の方針転換を打ち出しました.しかし現実には企業の生産活動制約による経済への大きな影響は避けがたく,個々人もエネルギー需給問題を認識した生活スタイル転換を余儀なくされることとなります.自然エネルギー活用を後押しする制度が必要なことは言うまでもありませんが,どの程度まで実現可能かを慎重に検討する必要があるでしょう.30年以上前ですが,大学から一般病院へ赴任する際,人事担当の助教授から,「これからの収入に応じて生活水準を上げていたら,特に家族ができたなら,将来大学へ戻って学究的な活動をすることはできなくなるだろうから,そのつもりで生活しなさい.」という内容の訓示めいたことを言われました.確かのその通りで,いったん上げた生活水準は容易に下げられませんので,私も同様のアドバイスをしてきました.今回のエネルギー危機を契機とした社会変換について,今の青壮年にどこまでの覚悟と決意があるのか,老年期に入った者としてはとても興味があります.
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.