今月の臨床 ここが問題─若年女性のやせ・肥満
若年女性のやせ・肥満と周産期異常
2.胎児期の栄養不良と生活習慣病
佐川 典正
1
1三重大学大学院医学系研究科病態解明医学講座生殖病態生理学専攻(産科学婦人科学)
pp.1307-1313
発行日 2010年9月10日
Published Date 2010/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102463
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はじめに
近年の疫学研究や動物実験から,胎児期に低栄養に曝された児は子宮内での発育が抑制されsmall-for-gestational-age(SGA)として出生するが,多くの症例では新生児期にcatch-upし,これらcatch-upしたSGA児は,成長後に肥満や糖代謝異常など生活習慣病を発症しやすくなることが明らかとなった.一方,動物実験ではあるが母体の蛋白摂取制限により出生仔が成長後に高血圧を発症しやすいことも報告されている.また,母獣に高脂肪食を負荷すると出生仔は成長後に肥満しやすくなるとの報告もある.これら各種成人期の疾病の発症には,胎生期~新生児期の各種臓器機能の発達形成時期にさまざまなストレス(刺激)が胎児の細胞に作用するとそれに反応してepigeneticな変化がその細胞に生じること(胎児プログラミング)によると推測されている.そして,この変化(プログラム)は成長後も発現し続け,運動不足や高脂肪食などの生活習慣が加重されると生活習慣病として発症する.
本稿では,まず母体低栄養に起因する胎児発育制限(intrauterine growth restriction : IUGR)が出生後の児に及ぼす長期予後について疫学的研究を紹介し,ついで,遺伝子発現調節の視点から現在考えられている胎児プログラミングの機序について概説する.
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