今月の臨床 母体救命搬送
【救急搬送のタイミングと応急処置】
2.妊産褥婦に合併した救急疾患
3)呼吸不全
永岡 賢一
1
,
赤星 俊樹
1
,
橋本 修
1
1日本大学医学部附属板橋病院呼吸器内科
pp.43-47
発行日 2010年1月10日
Published Date 2010/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102254
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
妊娠中には妊娠子宮の増大により横隔膜が挙上し,胸郭の形態が変化する.妊娠末期での横隔膜の静止位置は非妊時に比べ約4cm頭側に変位し,胸郭横径は約2cm増大する.しかし,呼吸による横隔膜の上下運動は制限されず振幅は増大するため,妊娠末期にはむしろ1回換気量が相対的に増加する.そのため,呼吸機能では機能的残気量が減少する(図1)1).くわえて,妊娠中のプロゲステロンの増加により,呼吸中枢における二酸化炭素感受性が増大して分時換気量が増加する.これら生理的代償変化が,妊娠により増加した酸素消費量を補う.実際には,動脈血二酸化炭素分圧は低下して軽度呼吸性アルカローシスを示すが,これは腎臓による代償でpH値は一定に保持される.
このような妊娠に伴う生理的変化は,呼吸予備能力の低下を反映しているため,妊娠中に合併症が生じると呼吸不全に陥りやすく注意を要する.母体動脈血酸素分圧が50mmHg以下では,胎児に深刻な影響が生じるためである2, 3).
呼吸困難や胸痛は急性呼吸不全の主症状であり,これらの症候をきたす疾患は重症度の高い疾患群が考えられ,適切かつ迅速な診断ならび治療が必要である.特に,緊急治療となる疾患では,肺血栓塞栓症,羊水塞栓症,急性呼吸窮迫症候群,肺水腫,気管支喘息,重症肺炎,緊張性気胸,急性心筋梗塞,急性大動脈解離,急性心筋炎,急性心内膜炎などが挙げられる.初期対応と鑑別診断を同時に行いながら,必要であれば速やかに救急搬送を行う.上記のうちの呼吸器関連疾患について詳述する.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.