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はじめに
近年,性器脱(子宮脱,前後の腟脱,子宮摘出術後の腟脱)は骨盤臓器脱(pelvic organ prolapse : POP)という用語に一括して論じられることが多い.POPは婦人科領域の重要な疾患である.なぜなら,POPは経産婦の高齢者に非常に多い疾患で,高齢人口の増加とともに増加しているからである.POPは生命を脅かすことは少ないが,高度になるとQOLを著しく損ない,長い余生を暗くする.一方,適切な治療を行えばそのQOLは100%近く回復できる.POPの根本的治療は手術療法しかないが,POPの現れ方は症例ごとに異なり,術後再発も多く,その予後は術者の技量によって異なるといったさまざまな臨床上の問題を有している.POPを扱う領域には,米国ではfemale pelvic medicine and reconstructive surgery,欧州ではurogynecologyがあり,ともに産婦人科領域に属している.しかし,欧米でも症例の一部は泌尿器科が取り扱っている.わが国では数年前にメッシュ手術(tension─free vaginal mesh : TVM)法が導入されてから特に泌尿器科医がPOPの手術に熱心である.筆者も2006年6月の女性骨盤底医学会で本法に出会ってから1),すべてのPOP症例を原則としてTVM手術を第一選択とすることにし,300余例を経験したが,腹圧性尿失禁,子宮頸部再下垂,メッシュびらんなど,従来法ではあまり遭遇しなかった術後合併症も出てきている.これらの合併症には従来の婦人科的手法の経験者なら十分対応できるので,TVM手術は婦人科が窓口になると術後の問題を含め幅広い適応が駆使できると思われる.TVM手術にしても,ほかの近年の術式にしても,長い歴史的変遷の末たどり着いた手法であり,POP治療の歴史を顧みることはPOPの近代治療の概念を理解するうえで有意義である.そこで本稿ではPOP(古い時代は子宮脱が主体)の歴史を概観してみる.
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