今月の臨床 PCOS─新たな視点
PCOSの診断と治療
1.診断の進め方
杉野 法広
1
1山口大学大学院医学系研究科産科婦人科学
pp.1172-1175
発行日 2006年9月10日
Published Date 2006/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409101273
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は,視床下部-下垂体-卵巣系の異常だけでなく,インスリン抵抗性,耐糖能異常,高アンドロゲン血症,副腎系の異常など多彩な病態を呈する症候群である.1つの異常をトリガーとしてすべての病態が引き起こされる機序を未だ説明できない複雑な疾患群である.さらに,診断基準のうえで,欧米のPCOSと本邦のPCOSとは合致しないこともあり,疾患概念に混乱を招いてきた経緯もある.欧米と本邦で診断基準が異なるのは,頻度が高い症状や検査所見が一致しないことが大きい原因の1つである.しかし,2003年に欧米の診断基準に卵巣における多数の卵胞の嚢胞状変化が取り入れられるようになり,違いはアンドロゲン過剰状態(hyperandrogenism)だけとなっている1).この高アンドロゲン血症もインスリン抵抗性による二次的なものであると指摘する報告もある.実際PCOSの治療において,インスリン抵抗性改善薬の有効性が報告され,PCOSの病態におけるインスリン抵抗性の関与も最近ますます重要視されてきている.
PCOSの患者が,視床下部-下垂体-卵巣系の異常,インスリン抵抗性,耐糖能異常,高アンドロゲン血症,副腎系の異常のすべての病態を呈するとは限らない.診断基準にしたがい,単にPCOSと診断するのではなく,PCOSの診断に当っては,これら多彩な病態のなかでどの病態を呈しているかを把握することが以後の治療や管理を進めていくうえで重要である.
Copyright © 2006, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.