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はじめに
株式会社社会情報サービスのアンケート調査結果によると,国内で600万人の女性が月経過多で悩んでいると推計している(表1,2).そのなかには,子宮内膜癌などの悪性疾患症例以外に月経時の激しい疼痛あるいは腫瘤の骨盤腔圧排による消化器・泌尿器などの機能不全を示す子宮腺筋症,あるいは子宮筋腫などの良性疾患症例も入っていると考えられる.これらの場合には子宮摘出術の適応である.しかし,過多月経に悩む女性のなかには鉄欠乏貧血以外に自覚症状を認めない症例も少なくはない.さらに,上記のアンケート調査によると,30~50歳の月経過多に悩む女性のうち月経過多を理由として通院中あるいは通院経験のある女性は30%に過ぎない(図1).残りの70%のなかには病院に行くと手術を勧められるので行きたくないという女性も少なくないであろう.過多月経女性のうち70%は通院していないというデータは,われわれ産婦人科医と病める女性との間に厳然とした距離感が存在していることを示している.また,視点を変えれば婦人科医療経営的には600万人の過多月経女性のうち70%が通院していないことは,420万人という手付かずのbig marketが今なお存在していることをも示している.
このような自覚症状の強くない過多月経症例に子宮摘出を行うのはover surgeryであるという考えから,欧米では最近20年間に,低侵襲的治療法として子宮内膜蒸散手術が広く行われるようになってきた.子宮内膜蒸散手術とは,挙児希望のない過多月経患者に対して子宮内膜蒸散(endometrial ablation)を行うことにより,子宮内膜機能層および基底層を破壊し月経血液量の減少あるいは無月経を目指す治療法である.初期の内膜蒸散手術はレゼクトスコープ1)あるいはレーザー子宮鏡2)を用いて行われた.その後さまざまの内膜蒸散器具が開発され,現在ではおよそ5種類の内膜蒸散器具が欧米では広く用いられている.これらの器具を用いれば,1日入院あるいは日帰り手術の規模で,静脈麻酔下に子宮摘出することなく過多月経の治療を行うことができるので,欧米では内膜蒸散術は婦人科臨床の大きな柱となりつつある.
翻って国内に目を向けると,周産期管理システムのドラスティックな転換を受け入れざる得ない状況が迫りつつある現在,過多月経に対する内膜蒸散術は個人産婦人科開業医にとって必修の手技となる可能性が非常に高い.本稿では,これらの内膜蒸散器具を紹介するとともに,その治療効果,内膜蒸散器具を用いる内膜蒸散術の合併症を報告する.
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