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1 診療の概説
妊娠末期の子宮頸管の熟化は,分娩の準備状態として重要である.子宮頸部は妊娠中,胎児保持のため硬く閉じ円柱状を保ち,流早産を防止する.分娩に際しては開大し,産道となって児の娩出に積極的な役割を果たす.そのため子宮頸部は妊娠末期には熟化,すなわち軟化と伸展性を持つようになる.組織学的には子宮体部が平滑筋を主成分とするのに対し,子宮頸部は主として結合組織によって構成され,筋成分は10%に達しない.
子宮頸部は妊娠末期から分娩発来前には次第に軟化し,次いで不規則な子宮収縮(Braxton―Hicks収縮)によって展退と開大が起こり熟化していく(図1)1).Calderの提唱する子宮頸部の軟化と熟化の過程を示すが,軟化は生化学的機序によって,形態の変化(展退)は軟化した子宮頸部に加わる機械的圧力(収縮)によると説明されている(表1)2).
ところで分娩誘発は,医学的,産科学的適応と社会的適応に大別される.いずれの場合も要約を満たす必要があるが,社会的適応の場合は,Braxton―Hicks収縮と頸管熟化の確認が必要である(表2, 3).
臨床的に熟化の程度を客観的・科学的に表す方法はない.一般にその判定は内診によりBishop scoreで評価される.妊娠末期に至った症例で分娩準備状態あるいは頸管成熟が進んでいない状態を頸管熟化不全と呼ぶ.Bishop scoreの点数が高いほど陣痛の発来が近く,陣痛発来した場合はその分娩進行も速やかなことが多い.逆に頸管熟化不全での陣痛発来や前期破水例ではしばしば分娩遷延となる.分娩誘発を行う場合も頸管熟化不全があれば頸管熟化を先に行うほうが成功率は高い.すなわち,子宮頸管熟化不全例では分娩誘発不成功となることがあるので,頸管熟化をはかってから陣痛促進剤を投与する.
当院では分娩誘発目的で入院した場合はマイリス腟坐剤,PGE1などの薬理的方法ではなく,機械的方法(頸管へのラミナリア桿の挿入)を行っている.ラミナリア桿は水分を吸収すると徐々に膨張し,約24時間で2~3倍の太さになる.手技としては子宮腟部前唇を把持し,長鑷子を用いてラミナリア桿を1本ずつ,通常10本以上挿入する.子宮口閉鎖の場合はヘガール頸管拡張器などであらかじめ拡張しておく.ラミナリア桿は12~24時間後に抜去して陣痛促進剤を投与する.また坑菌薬を予防投与する.ラミナリア桿抜去時には子宮口は3 cm以上開大しているケースがほとんどである.しかしなお子宮頸管が硬い場合はネオメトロなどを併用し,陣痛促進剤の投与を行う.ラミナリア桿のほかにはダイラパンなどがある.
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