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はじめに
上皮性卵巣腫瘍のなかには臨床的に良性と癌の中間的な性格を持つものが存在することから,1929年Taylor1)によって境界悪性腫瘍という概念がはじめて提唱された.その50年後の1971年FIGOにより“carcinoma of low malignant potential”として,また,1973年にWHOにより“adenoma of borderline malignancy”として境界悪性腫瘍の概念が正式に導入され,Serovら2)により組織学的な診断基準が示された.すなわち,卵巣境界悪性腫瘍は臨床的に良性と癌の中間的な性格を持つ疾患群の範疇を組織学的に定義した疾患である.
本邦においては,1990年に出版された日本産婦人科学会と日本病理学会による卵巣腫瘍取扱い規約のなかで,①上皮細胞の多層化,②腫瘍細胞集団の内腔への分離増殖,③同一細胞型における良性と悪性の中間的な核分裂像と核異型,④間質浸潤の欠如,を特徴とする腫瘍と定義されている.境界悪性腫瘍の正確な発生頻度は不明であるが,全上皮性卵巣がんの10~15%を占めるとされる.本邦で境界悪性腫瘍に分類されているのは,表層上皮性腫瘍として漿液性,粘液性,類内膜,明細胞,Brenner腫瘍の各境界悪性腫瘍以外に,性索間質性腫瘍として顆粒膜細胞腫,セルトリ・間質細胞腫瘍,ステロイド細胞腫瘍など,また胚細胞腫瘍として未熟奇形腫(G1, G2),カルチノイドなど非常に多くの組織型も含まれる.しかし,実際は,表層上皮性腫瘍の漿液性境界悪性腫瘍と粘液性境界悪性腫瘍の発生頻度が高く95%以上を占める.
そこで本稿では,漿液性境界悪性腫瘍と粘液性境界悪性腫瘍を中心に,その化学療法について述べる.結論としては,原則として境界悪性腫瘍に対する化学療法は必要でないが,進行例については議論が分かれている.
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