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はじめに
本邦における上皮性卵巣癌は10万人あたり4.8人の発生率であり,増加傾向であると報告されている1).欧米諸国での発症率は10万人あたり9~12人とされるが,最近減少し始めているとされる2).元来,日本人を含む黄色人種は卵巣癌の発症が少なかったものの,最近の食を含む生活習慣の欧米化や少子化などのリスクファクターが増加することにより発症が加速してきているものと推察される.また,卵巣癌の病理組織学的差異についても日米で差異が存在するといわれて久しいが,なかなか証明が困難であるのが現状である.Iokaら1)の大阪近隣の腫瘍登録状況からの報告によれば(対照としてGoodmanら2)の米国での組織型別割合を示す),漿液性腺癌34.5%(38.2%),腺癌NOS 24%(24.8%),粘液性癌18.9%(10.1%),明細胞腺癌18.9%(4.1%),類内膜腺癌8.9%(12.1%),その他2.3%(10.7%)であった.この調査からも本邦での組織型別頻度の特徴である「明細胞腺癌と粘液性癌が多い」ことがいえる.本邦ではこの「頻度が高い明細胞腺癌と粘液性腺癌」が従来の化学療法に抵抗を示すことが多いために,組織学的にレジメンの個別化を行おうとする試みが多数なされてきたが,いずれも症例数に限りがあること,さらにこれら2つの組織型は完全摘出が可能なことが多いために残存腫瘍がなく,薬剤の奏効度が判定しにくいため有効なレジメンの開発は困難であった.
一方,上皮性卵巣癌の化学療法は1970年代より米国のGOG(Gynecologic Oncology Group)を中心とした大規模前方視的無作為比較試験(prospective randomized control study : RCT)によって決定されてきた.欧米でのRCTは組織型をまったく無視して行われてきたが,「明細胞腺癌と粘液性癌」が多くないため重視しなくてもよかったといえる.Key noteとなる有名なRCTを振り返ると,サイクロフォスファミド+シスプラチン併用療法(CP)とパクリタキセル+シスプラチン併用療法(TP)を比較したGOG 111では,漿液性腺癌70%,類内膜腺癌11%,粘液性腺癌4%,明細胞腺癌2%という組織型比率であった3).また,CAP療法,カルボプラチン単剤およびパクリタキセル+カルボプラチンの併用療法(TJ)を比較したICON3では,漿液性腺癌54%,類内膜腺癌16%,粘液性腺癌7%,明細胞腺癌6%であった4).これらの大規模なRCTはIII,IV期症例のoptimalあるいはsuboptimal症例を対象としているためI,II期癌が多い粘液性腺癌や明細胞腺癌がエントリーされていなかったことも考えられるが,欧米において発症頻度の低い組織型を軽視してきたことがうかがえる.
しかし,本邦においては明細胞腺癌の比率が20%程度あり,III,IV期症例も少なからず存在するため決して無視できない組織型である5, 6).NPO婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構(JGOG)によって,明細胞腺癌の初回療法としてパクリタキセル+カルボプラチンの併用療法(TJ)と塩酸イリノテカン+シスプラチンの併用療法(CPT─P)のRCT(プロトコール番号JGOG3014)が行われているが,本邦発の提言として「組織型別のレジメン」が提唱できるか期待したいところである.
以下,「組織型別レジメンが適応されるとすれば……」という過程に基づいて組織型別に適切なレジメンを考察する.
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