講座
乳汁分泌
尾島 信夫
1
1慶應大學醫學部
pp.24-25
発行日 1952年3月1日
Published Date 1952/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200058
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若い婦人の乳房は乳腺を包む脂肪組織が主であるが,妊娠すると胎兒と競爭するかの様に,腺組織の盛な發育が始まる。初は卵巣内の黄體,中頃からは胎盤の分泌する豊富なホルモンがその原動力である。両者から出るエストロヂェン(發育ホルモン,卵胞ホルモン)は主としてこまかく分枝した腺管を,プロヂエステロン(向妊娠ホルモン,黄體ホルモン)は前者との協力により,乳管の末端にあつて乳汁分泌を行う嚢状の終胞腔(腺房)の發育を促す。併し分泌作用は腦下垂體前葉からの泌乳ホルモン(プロラクチン)の刺戟でおこり,エストロヂエンは一方では下垂體にプロラクチンの分泌を促すので,妊娠後半期には發育の進んだ腺房が刺戟され,分泌がおこつて膨大し,分泌液の1部は初乳として溢れ出るに至る。併しエストロゲンは乳腺に働いてプロラクチンの分泌催進作用を抑止させる力もあるので,妊娠中は初乳分泌の程度に食いとめている。分娩がすんで胎盤が娩出されるとエストロヂェンは急激に消失し,プロラクチンの獨舞臺となるので數日中に猛然と分泌作用が開始される。乳腺内の分泌が盛に起つても新生兒に對する哺乳が順調にゆかなければ何の役にも立たないし,乳汁滞溜症の苦痛を生ずる。直接の授乳が困難ならばマツナージにより充分に搾乳することが必要で,哺乳か搾乳かいつれにせよ乳汁の排泄は分泌機能を持續させるためにも重要な因子である。
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