境界領域
反射運動と随意運動の神経機構
伊藤 鉄夫
1,2
Tetsuo ITO
1,2
1京都大学
2京都市リハビリテーションセンター
pp.743-759
発行日 1978年8月25日
Published Date 1978/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408905754
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はじめに
近年,整形外科学は非常な発展を遂げ,多く難治の疾患が姿を消し,あるいはその病理が解明されて治療の道が開かれた.現在,脳性麻痺は,悪性腫瘍や骨系統疾患とともに,挑戦すべき最後の研究課題になつた.重度の身体障害者の大部分が重度脳性麻痺である.この疾患を理解するためには運動神経学の深い知識が必要である.近年,神経学は著しい発展を続けている.殊にEccles等は単一神経細胞内電極挿入法を用いて大脳や小脳の機能の解明に大きな業績をあげた.この研究によつて随意運動が皮質連合野-小脳-皮質運動領の回路によつて統御され,この回路において小脳が複雑な運動のプログラム化に重要な役割を果すと推論されるようになつた.
中枢神経は機能の観点から,中脳以下の下位機能単位と中脳以上の上位機能単位に分けることができる.中脳,橋,延髄,脊髄よりなる下位機能単位は反射運動を統御し,上位機能単位は主として随意運動を統御する.小脳はブイードバック機構の中枢として両機能単位の機能に密接に関与する.このことからわかるように,上下機能単位の間には機能水準進化の原則the evolunary principle of levels of functionがある.すなわち,神経系の機能単位はその進化の過程において獲得した機能を保持しており,下位機能単位は反射運動を統御し,上位機能単位は随意運動を統御し,下位機能単位よりも優位を占める.
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