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I.はじめに
動物の行為は効果器である多くの筋肉の協調(coor—dination)によって成り立つ。これらの筋肉の運動を構成する機能的要素というべきものが運動単位または神経筋単位(1個の脊髄運動ニューロンとその支配下にある筋線維群)である。神経系は多くの神経筋単位を使い分けることによって行為を制御する。Sherrington36)は,分化した多くの機能的要素の存在を前提した上で各要素間の協調の機構を神経系の統合作用(integrative action)と称した。神経系の構成が進化する過程で機能的要素が増加し複雑化すればするほどに,各要素間の相互関係は合目的な協調性に富む生物特有の組織体制を,当時の反射学の知見に基づいて,統合作用という概念で表現したと考えられる。
その後の脳研究の進展によって機能的要素は反射レベルを超越して多様化し,ヒトの言語や動物の行動から分子レベルの生体現象にいたるすべての階層で,それぞれの機能的要素の複合性は単なる複雑化ではなくて,常に要素間の巧妙な協同性(cooperativity)によって裏打ちされていることが明らかになってきた。本稿では,生体現象に広くみられる協同性をキー・ワードとして運動制御に関する研究の現状を(1)効果器の機能的要素である神経筋単位と(2)それを支配する中枢機構の両面から概括してみたいと考えた。もとよりすべての知見を網羅することはできないし,中枢機構に解析不足の点が多いので,僅少なトピックスについて私見を述べるにとどまることになろう。不十分な論考ながら,精密化に向かう近年の分析的研究に対してSherrington流の統合原理を再考する1つの手がかりになれば,とりあえずは事足りるとしたい。
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