視座
診察には観察力の涵養を
片山 良亮
1,2
1東急病院
2東京慈恵会医科大学
pp.159
発行日 1970年3月25日
Published Date 1970/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408904372
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先人の見い出した症状のなかには実によく観察されたものがある.たとえば,これを股関節結核に例をみると,初期には膝関節の内側に疼痛のあることを先人が気づいて,診断の一助にしている.知つてしまえばコロンブスの卵であるが,これを気づくには鋭い観察力と注意力が必要であつたはずである.また股関節結核ではごく初期のうちから臨床的には観察できない程度のきわめて軽微な外転位拘縮をもつているものであるが,この時期の股関節のレ線像には,ほとんど認むべき変化がない.あるいは軽度の骨萎縮があるかも知れないが,診断の根拠になるほど明確な所見でないことが多い.ところが,かかる初期でもレ線像で骨盤が患側へ傾いていることを観察して診断の一助になることがある.それは,股関節が外転位にあるから,レ線写真を撮るときに両脚をそろえることで患側に骨盤が傾くのである.しかし骨盤が傾いているといつても軽微なことで,よほど観察力が鋭くないと,このことを予め教えられていないかぎり,自分で気づくのは非常にむずかしい.
したがつてわれわれは診察のさいは鋭い観察力と注意力を働かさねばならないと思う.また常に,その涵養に努力せねばならない.それにつけても最近はいろいろと立派な科学的な診察法が発見され,発達して,診断がますます確実さを増してきたことは結構なことである.しかし,これらの診察法には,その疾病自体をズバリと言いあてるものは少なく,たいていは非特定なもので,診断の補助にはなるが,それ以上のなにものでもないことが多い.
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