シンポジウム 日本の義肢問題
基礎的問題
幻想肢障害の治療方針
黒丸 正四郎
1
Seishiro KUROMARU
1
1神戸大学医学部精神神経科学教室
pp.874
発行日 1968年10月25日
Published Date 1968/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408903991
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義肢装着に際し,いつも問題になるのは幻想肢ならびに幻想肢痛の処理である.したがつて,この点に関して神経科の立場から発言したいとおもう.
幻想肢の起源に関しては,従来,中枢説,断端末梢説などいろいろの論議があるが,神経学の面からいうと,これは「身体図式」body imageの障害の一つの現われといえる.すなわちわれわれは幼少の時からのあらゆる知覚運動の体験の積み重ねとして,自己の身体の各部位に関する主観的な一つのimageをつくりあげている.しかもこのimageは単なる観念的なものでなくて,一つの生々しい実感であり,知覚の統合中枢であるThalamusや大脳皮質とに関連する完結されたGestaltであるといえる.したがつて,amputationによつてにわかに肢体の一部を喪つても,知覚の統合中枢に存在するbody imageはそれと同時に変化しないから,切断直後しばらくは喪われた肢体の幻想肢が残存するのは当然といえよう.しかし,多くの場合,切断直後の幻想肢体験は間もなく消褪し,新らしいbody imageが構成される.最近,神戸大,柏木教授門下は切断後,早期に義肢を装着して義肢訓練の円滑をはかつているが,これなど,いまだ喪つた肢体に関する幻想肢体験がうすれないうちに,幻想肢の中に現実の義肢をはめこんでゆくというもので,はなはだ興味のある方法といえる.
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