連載 高齢化社会の福祉と医療を考える・33
老人ホームと擬似家族幻想
木下 康仁
1
1立教大学社会学部
pp.508-511
発行日 1989年5月1日
Published Date 1989/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922278
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
◆ケア従事者の中にある「家族」
今回は老人ホームと家族について少し掘り下げてみたい.私たちの関心は,老人ホームよりも家族と呼ばれる人間の結合集団をどう理解したらよいのかという問題にあるからである.この課題にアプローチする1つの有効な方法は,老人ホームから家族を考えることだと思うのである.しかもこの問題は実際のケアにとっても非常に大きな意味を持つので,戦略的な問題設定となろう.
ここでの具体的な登場者である老人,ケア従事者,老人の家族のうち,焦点をおくのはケア従事者で,彼らの意識中の家族を分析の対象とする.
老人ホームの場合,言うまでもなく老人の家族は常時ケアの場にいるわけではない.せいぜい時折,それも大抵は短時間だけ現われる人間になる.だが,時折現われるにせよ全く現われないにせよ,ケア従事者たちは彼らを無視するわけにはいかないし,彼らの存在を何とも不可解なものと感じとっている.実際にはケア状況に存在しない人間なのにもかかわらず,家族であるが故に,透明人間のごとく常にケア状況にいるともいえる.
Copyright © 1989, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.