グラビア
とかく女は…—美しき幻想を壊すもの
堀 秀彦
pp.126-127
発行日 1970年4月1日
Published Date 1970/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914854
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この頃、女のひとたちはなんと美しくなったものだろう。私の若いころ──つまりいまから半世紀も前の東京の街で、ひとりひとり、こんなにも美しい女のひとたちを見かけたろうか。思い出そうと懸命に努力してみるのだが、なかなか思い出せない。第一その頃は若い女のひとたちがこんなにも自由に、昼も夜も、街なかを出歩くことはなかったろう。デパートもなかったし、三越といったって、それはタタミのしいてある、だから入口で下足札をもらって下駄をはきかえる「三越呉服店」であり、若い男の出入りする場所ではなかった。私の少年の日、美しく若い女性はみんなどこかに隠れていたのかもしれない—が、いまは美しい女性がデパートにも電車にも喫茶店にもあふれている。
懇意な出版社の社長の自動車をかりて、昨日ちょっと用足しに出かけた。顔見知りの運転手と一言二言話しているうちに、彼は突然こう言ったものだ。「失礼ですが、先生はおいくつにおなりですか。」「いくつかって。68才だよ。もうダメだね。」「でも先生はお若いですね。お年には見えませんよ。やはり、大学のほうで、しょっちゅう、若い女子大生たちと接していらっしゃるからでしょうね。」と彼は言うのだ。で、私はそのあとをつづけて言った──「でも、君、いまの若い女性たちは、なんにも言わないで黙っていると、とても美しく、とても利口そうに見えるんだが──さて、一言二言、口をきくとゲッソリしてしまう。
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