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脊椎外科は近年のMRIなどの診断機器の進歩,さまざまなインプラントや生体材料などの開発とともに長足の進歩を遂げてきた.極論をいえば画像とインプラントがあれば患者の症状を改善することも可能になった.しかし,脊椎手術の基本はあくまで「見て,聞いて,触って,削って」である.患者の姿勢や歩容,四肢の動きなどを視診し(見て),現病歴や症状(安静時にも痛みがあるかどうか,立位歩行時に症状が増悪するかなど),ADLのレベル,治療ゴール(家事ができればよい,旅行に行きたい,ゴルフに復帰したいなど)の希望を把握し(聞いて),反射や感覚も含めてしっかりと神経学的所見をとり(触って),画像との整合性をもって正しい責任高位を同定し,治療方針を立てる.手術を行う際にはインプラントの使用は可能な限り控え,除圧単独(削って)で行えないかどうかを検討する.変性すべり症に対して除圧か固定かは議論があるが,不安定性や変形が顕著な場合や再手術例などを除いて,除圧術で十分な結果が得られることも多い.神経学的所見によって責任椎間を同定し,神経除圧を行い,術後患者が希望するADLレベルを獲得して結果に満足いただけたときは脊椎外科医にとっては至福のときである.
一方,MRI画像だけを見て脊柱管狭窄症と診断して腰椎の手術をしたが症状が改善せず,改めて診察したところ反射が亢進しており,MRIを見直したところ下位胸椎の黄色靱帯骨化症が症状の主原因であったという症例,安静時下肢痛が主訴であったにもかかわらず脊柱管狭窄症の診断で椎弓切除のみをしたところ,術後症状が改善せず,実は椎間板ヘルニアが頭側に存在しており症状の主因であったという症例など,苦い経験も経験している.いずれも聞くことや触ることを怠った結果である.
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