Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
- サイト内被引用 Cited by
はじめに
近年の整形外科における臨床研究では,痛みや機能障害といった患者の主観を評価する患者立脚型質問票(patient reported outcome:PRO)が重要視されている.整形外科の治療目標は,患者のquality of life(QOL)を向上させることであるため,患者の主観的なQOLに関連した障害を定量化する必要性がある.PROは一般的に複数項目のアンケート調査によって構成され,全般的な健康関連QOLを評価するShort Form-36(SF-36)やEQ-5Dのほかに,疾患に関連した健康関連QOLを評価する質問票がある.例えば腰痛に関連した健康関連QOL調査票ではOswestry Disability Index(ODI)やJOA Back Pain Evaluation Questionnaire(JOABPEQ)などが挙げられる.
PROの中には,患者の疼痛や機能障害だけでなく,心理的因子や満足度を測定している質問票があり,整形外科のみならずリハビリテーション,神経分野でも,その重要性が認知されている.まず,これらのPROを臨床研究などで使用するにあたり,その質問票がすでに信頼性,妥当性,そして治療反応性が確認されているかどうかを知っておく必要がある.その上で複数の質問項目から算出されるスコアをどのように解釈するかが重要である.痛みの程度を評価するVisual Analogue Scaleでは,簡単にそのスコアや変化値を理解することが可能である.しかしながら,複数項目からなるPROでは,算出されたスコアや治療前後の変化値を,どのように解釈すればよいかを理解することは難しい.例えば,上記に挙げたODIは,腰痛に関する10個のアンケート項目を用いた質問票で,腰痛関連障害を0〜100(%)で評価する.その中で40(%)はどんな意味を持つのか,もしくは10(%)改善したことがどのような意味を持つのかを,そのPROに慣れていない臨床家や研究者には理解ができないと考えられる.
ここで,1989年にJaeschkeら1)が提唱したMinimal Clinically Important Difference(MCID)という概念がある.これはPROにおいて,患者における変化が有益であると解釈できる最小の変化値という概念である.ODIのMCIDが15(%)であれば,治療後にODIが20%減少していればその値がMCIDより大きいために,治療により臨床的に意味を持った改善がなされたと判断できる.つまりPROを用いた研究では,あるグループにおいて治療前後のスコアの差を統計学的に差があるかどうか検討するだけでなく,個々の症例がMCIDに達しているかどうかを判断することで臨床により即した解釈となる.しかしながら,MCIDは整形外科医にとって直感的にわかりにくく,さらに同様の概念のキーワードも多いため(表1),敬遠しがちである.本章では,MCIDの概念とそれらの算出方法を中心に記載し,実際の臨床研究や臨床におけるMCIDの考え方,そして問題点についても言及する.本稿では,論文の体系的なレビューではなく,過去のMCID関連の論文を読み,筆者の臨床研究の経験も踏まえて整形外科の臨床研究におけるMCIDの意義について記述する.
Copyright © 2019, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.