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わが国における関節リウマチ(RA)の総患者数は約70万人と言われている.ご存知のように,RA病変は四肢関節に多く発症するが,脊椎も特に頚椎では全患者の50~70%と高頻度にRA病変が合併するとされている.つまり単純に計算すると,約35万人ほどのRA患者が何らかの頚椎病変を有していることになる.しかしRAでは変化がとらえやすい四肢の関節病変に目が向けられ,現在でも重要な脊椎病変の診断が遅れたり,見逃される例も決して少なくない.脊椎には支持性と運動性,そして脊髄の保護という3つの重要な役目があるが,RAではこれらが同時にすべて障害されることも起こりうる.その症状も後頭部・後頚部痛などの単なる局所痛から,脊髄麻痺による寝たきりの状態,さらには突然死に至った例まで報告されている.このため,個々のRA患者の治療方針を決定するに当たっては頚椎病変の把握は必須であり,その病態や神経障害発現機序,手術適応とその方法,そして頚椎手術患者の予後などについて十分理解しておくことが必要である.これらのRA頚椎病変は通常,保存的に加療されるが,激しい痛みや麻痺に対して手術療法が唯一の治療法となる場合も少なくない.RA頚椎に対する手術は,以前は困難を極めたが,近年のinstrumentation手術やnavigationシステムなどの開発,進歩により,最近では手術成績の向上と術後臥床期間の短縮が得られている.加えて,薬物療法も新たな展開に入っており,外科的療法を含めたRA頚椎病変の治療体系そのものを再検討する時期にある.
さてRA環軸椎病変は,一般に四肢のRA関節炎と同様に滑膜炎から始まる.病変は関節包の弛緩と主に靱帯付着部を中心とした横靱帯などの弛緩,断裂へと進み,環軸椎間の支持機構が破綻して徐々に前方への不安定性,亜脱臼が生じる.さらに炎症が波及すると,歯突起と外側環軸関節が侵され,その破壊の程度により脱臼形態が決定される.すなわち,病変は前方脱臼から前方+垂直,前方+後方,さらに垂直や後方,側方脱臼へとRA活動性や罹病期間に伴い進行する.このため,垂直脱臼や後方脱臼は罹病期間の長いRA高度進行例に多い.脱臼により脊柱管は狭小化し,延髄・脊髄は静的に圧迫を受けて麻痺が出現する一方,環軸椎の不安定性による動的因子によっても脊髄麻痺が発症する.さらに前述した骨性因子による脊髄症発現機序に加えて,RAでは歯突起周囲の滑膜炎による軟部組織の腫脹や肉芽組織,さらに硬膜周囲の肉芽組織や索状物による狭窄なども脊髄症発現因子となる.特に歯突起後方の腫瘤はMRIにより画像的に描出される.この歯突起後方腫瘤には2つの病態があり,四肢のRA関節炎と同様に滑液の貯留と,滑膜組織・肉芽の増殖である.不安定性は単純X線機能撮影で評価し,脊髄圧迫の有無についてはMRIを用いて評価することが妥当である.垂直脱臼は多関節破壊型やムチランス型,長期罹患例にみられる.この脱臼・不安定性に伴う神経障害は,脳幹・下位脳神経症状として嚥下困難や構音障害,意識障害,顔面の知覚障害などがある.これに脊髄障害として四肢麻痺が加わると,いわゆるpentaplegia型の重篤な麻痺となる.また,延髄高位で脊髄呼吸中枢が障害されるとrespiratory quadriplegia型の麻痺を呈する.RA頚椎病変は環軸椎の前方不安定性,亜脱臼に関しての詳細な報告は多いが,上位頚椎病変の中でも最も注意すべき病態である垂直脱臼に関してまとまった報告は意外と少ない.このため本シンポジウムでは,特にこの病態の中でも高度,重症垂直脱臼例に対して豊富な経験を有する清水敬親先生に執筆をいただいた.
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