特別シンポジウム どうする日本の医療
市場原理と医療・米国の失敗から学ぶ―日本の医療制度改革の動きとの関連で
李 啓充
pp.976
発行日 2005年9月1日
Published Date 2005/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408100172
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現在の日本の医療制度改革の議論には,「市場原理・競争原理の導入」「官製市場の打破」というキーワードがしばしば出てきます.まるでそうすれば,患者の選択の幅が広がるような,あたかもよいことずくめのような印象を与えます.しかし,先進国の中で実際に医療を市場原理に委ねているのはアメリカだけです.私は,医療を市場原理に委ねるとどうなるのかについて,アメリカの実情を述べたいと思います.
アメリカでは,民間の保険会社が販売する医療保険が主流です.しかし,市場原理の下では弱者が切り捨てられるので,たとえば,1965年まで高齢者の2人に1人が無保険者でした.そこでジョンソン大統領が,高齢者向けに「メディケア」,低所得者向けに「メディケイド」という公的医療保険制度をつくりました.公的医療保険は,連邦政府の国家総予算の16%にあたる巨額の税金を投入して運営されていますが,それでも4000万人以上が無保険者のままです.市場原理にまかせますと,どうしても落ちこぼれる人が出てしまい,それを救済するために巨額の税金を投入するのですが救済しきれません.
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