忘れえぬ人びと
M.I.さん
榊原 宣
1
Noburu SAKAKIBARA
1
1十全会心臓病センター榊原病院
pp.1267
発行日 2002年9月20日
Published Date 2002/9/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407904974
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5月22日,午前11時過ぎ.会議は白熱していた.その時,小さな紙切れが渡された.紙切れにはM.I.さんが午前10時15分亡くなったとの渡辺英章博士からの報せがメモしてあった.M.I.さん.私にとって,忘れえぬ人びとの1人である.
M.I.さんは1989年1月5日,外来に紹介患者として現れた.紹介元は当大学婦人科だった.正月明けを待って早々の受診だから,緊急患者である.婦人科の紹介紙に食道癌とある.年齢をみると,1918年12月10日生まれである.早速,腹部を診ると,上腹部にも,下腹部にも正中切開手術瘢痕がある.1982年,胆石症で胆嚢摘除術,1983年,子宮頸癌で手術を受け,その後放射線治療を受けている.1986年,イレウス,1989年7月と9月にもイレウスで入院,治療されている.いずれも手術は行われていない.同年12月7日,上腹部不快感があるため,上部消化管X線検査を受けたところ,下部食道に異常所見を指摘された.12月18日になって嘔吐が現れたため,婦人科へ緊急入院した.12月21日,内科で内視鏡検査が施行され,食道癌と診断されたとのことだった.患者本人は癌ならこのままにしてほしい.手術は痛いからいやだと強情を張る.とにかくよく診て,最善を尽くすからとなだめた.
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