南極物語
ダイダンの多血症
大野 義一朗
1
Giichiro OHNO
1
1東葛病院外科
pp.1265
発行日 2001年9月20日
Published Date 2001/9/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407904579
- 有料閲覧
- 文献概要
9月に内陸のH72地点で浅層ボーリング調査が行われた.39次隊では初めての本格的な内陸調査で,今後予定されているドームふじ,やまと山脈など内陸旅行の前哨戦であった.南極では雪が溶けることはない.積雪は平均2,000mの厚さの圧雪氷(氷床)となって大陸を覆っている.氷床は辺縁が急峻なお供え餅のような格好をしていて海岸から見上げるような急坂を一気に登り切って氷床の上に出る.360度ぐるりと白い地平線が見え,いつも強風が吹き,生き物はひとつもいない.H72地点は気圧830〜50hPa,気温は昭和基地より10℃以上低い.それに9月は1年で最も過酷な季節だった.作業用テントは風に破れ,雪に埋もれた.除雪に明け暮れ,全員が凍傷を負った.支援の後発隊は悪天候で立ち往生し,目的地に着けなかった.貴重なサンプル採取には成功したもののさんざんであった.
内陸から帰ってくるとみんな赤血球数が増加していた.中でもダイダン(雪氷)はH72の前後で505万から580万/mm3へと最大幅を示した.彼は越冬序盤のドームふじ旅行から帰った直後にも725万まで上昇していた.ドームふじは昭和基地から真南1,000kmの内陸にあり,標高3,800m,気圧500hPa台,年間最低気温は-70℃を割り,最高気温も−20℃と南極でも屈指の厳しい環境にある.今は無人だが1995年から3年間ここで越冬し,深さ2,000mまで氷のボーリングを行った.
Copyright © 2001, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.