外科医のための局所解剖学序説・20
腹部の構造・7
佐々木 克典
1
Katsunori SASAKI
1
1山形大学医学部解剖学第一講座
pp.351-361
発行日 1998年3月20日
Published Date 1998/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407903134
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「世界外科学史年表」(佐藤正)によれば最初に腎臓摘出を行ったのは1869年ハイデルベルクのSimon Gであると記載されてある.129年前の論文が国内で手に入るかどうか心配であったが,1施設のみDtsch Klinのバックナンバーを持っていた.期待していたところ,送られてきた論文は2ページにも満たないもので,暫定的な報告にすぎなかった.これが評価を受けている論文とは思えず,他のいくつかの論文の引用文献をチェックしてみたが,間違いなかった.これを見て思うに後世(おそらく半世紀以後)評価されるのは論文の長短でも,発表された雑誌の知名度でもなく,付加的な要素がすべて取り払われた後に残る実質的なもの(何をやったか,何を得たか)だけなのだろう.カオス理論の萌芽になる論文が目に触れることもないような気象学雑誌に発表されたことを思い出す.要はどのような雑誌であれ,データを眠らせずに発表しておくことが大事だという良い例である.
この短い論文から最初の腎臓摘出がどのような状況下で行われたかを見てみよう,歴史的な手術が行われる1年半前に当の患者は卵巣嚢腫の手術のため入院した.開腹してみると嚢腫は子宮に密に癒合していた.そのため卵巣摘出と同時に子宮摘出も行った.さらに嚢腫は子宮だけでなく尿管も巻き込んでいたので,抜き取るようにして尿管を分離した.ところが術後恥骨上部に尿管瘻ができてしまい,左腎臓の尿がその場所から流れてくる羽目になった.
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