外科医のための局所解剖学序説・17
腹部の構造 4
佐々木 克典
1
Katsunori SASAKI
1
1山形大学医学部解剖学第一講座
pp.1585-1593
発行日 1997年12月20日
Published Date 1997/12/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407903061
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この連載で胆嚢だけを論ずる機会がないため,ここで少しその埋め合わせをしておきたい.胆嚢の手術の際必ずとりあげられる局所構造にCalot JFの名前が冠されたカローの三角(Calot's tri-angle)がある.しかし胆嚢管を底辺として,総胆管,肝下面で囲まれた三角で血管や胆管の損傷を招きやすい場所とする現在の記載は,Calotの最初の記載を必ずしも正確には反映していない,1891年Calotは,“この三角は正三角形ではなく,どちらかといえば二等辺三角形に近い.上縁は胆嚢動脈,下縁は胆嚢管でほぼ等しく,底辺となる肝管よりわずかに長い.腹腔神経叢の細かな枝で覆われている”と述べており,重要な構造の少ない3〜4cmの狭い隙間を指している.肝臓下面を含めた定義は拡大解釈されたものであり,いつのまにか名義だけが残り内容がすり替わってしまった.本人は不本意かもしれない.Calotが胆嚢の手術に深く関係したと考えるのはごく自然であるが,奇妙なことに彼の名前はこのトライアングル以外消化器外科領域で聞くことはない.それもそのはずで彼はPott's diseaseの治療をライフワークとした整形外科医であり,胆嚢は学位をとるためのテーマだった.彼自身胆嚢摘出はやっていない.Calotは信心深く内向的で,旅行を好まず,そのため国際的な名声を求めることもなくフランスの小さな街で一生を送った.
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