外科医のための局所解剖学序説・19
腹部の構造 6
佐々木 克典
1
Katsunori SASAKI
1
1山形大学医学部解剖学第一講座
pp.225-234
発行日 1998年2月20日
Published Date 1998/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407903114
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診断の神様と言われた沖中重雄が最終講義で誤診について語った時,それを直接聞いた人々はもちろん,その後時代を経て講義内容を読む機会を得たものにとっても深く感銘させられるものがあった.手元に書籍がないため正確な数値を引用できないが,診断しにくく誤診しやすいものに膵臓の疾患を挙げておられたと記憶する.膵臓は腹腔の最も奥にあり,椎体に取り巻くように密着している臓器で,症状が出にくく,また位置的特殊性からCTやMRIが出現するまでは,極端に言えば“開かずの間”だった.しかもその裏には重要な血管が複雑に存在し,かつ臓器をえぐるほど密着しており,外科で扱う際も実に苦慮した,しかし人類は果敢にこの臓器にチャレンジしてきた.1884年にBillrothが全摘したと記録されている.その後しばらく目立った動きはなかったが,1910年Finneyが体部を切除し,頭部と尾部をつなぐ安全な手術法を開発してから,外科医はこの臓器を躊躇せずに手術するようになった.しかし膵頭部切除が完成するまでにはさらに25年を要している.
十二指腸乳頭部癌に膵十二指腸乳頭部切除を初めて行ったのが1935年,コロンビア大学のWhip-ple AOであり,彼の考案した術式がその後標準的なものとして流布した.しかしオリジナルが必ずしもそのまま踏襲されたわけではない.
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