遺伝子治療の最前線・9
MDR1遺伝子導入による癌治療
杉本 芳一
1
Yoshikazu SUGIMOTO
1
1財団法人癌研究会癌化学療法センター
pp.343-349
発行日 1998年3月20日
Published Date 1998/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407903133
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
抗癌剤を用いた癌の化学療法は外科手術,放射線治療とともに現在の癌治療の根幹を成すものであるが,この時,正常細胞への毒性が常に問題となる.とりわけ抗癌剤の血液細胞に対する毒性(骨髄抑制)は,癌化学療法における最大の投与量規定因子である.抗癌剤は通常静脈内に投与されるので,最初に抗癌剤がさらされる末梢血細胞は抗癌剤による一次的な障害を受ける.また,多くの抗癌剤は増殖している細胞に強い細胞毒性を示すため,抗癌剤の投与は骨髄中にある造血前駆細胞,造血幹細胞(これから増殖分化して末梢血液細胞となる細胞)に強いダメージを与え,これが二次的障害として血液細胞の再生産を阻害する.この血液毒性は白血球や血小板の減少として現れ,感染や出血など時として致死的になりうる副作用を引き起こす.したがって,実際には患者が耐えられる投与量ぎりぎりの量の抗癌剤を投与して,できる限り癌細胞を殱滅するというのが現在の癌化学療法の戦略とその本質的な限界である.
筆者らはこの現状を打破するために,抗癌剤耐性遺伝子を癌患者の造血幹細胞に導入して,患者の血液細胞を抗癌剤に耐性にすることにより,抗癌剤の骨髄に対する副作用を軽減し,より安全により有効な治療を行う,という抗癌剤耐性遺伝子を用いた遺伝子治療法を提唱している.
Copyright © 1998, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.