臨床外科交見室
外科手術の変遷と普遍性
加藤 博明
1
1日赤和歌山医療センター第1外科
pp.1048
発行日 1997年8月20日
Published Date 1997/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407902815
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研修医と一緒に手術をしている.「この層に入れば,ほら血がでないだろ.大事なのは層だよ.層.」“Schicht”.自分も同じ医者になりたてのころ,20年も上の部長先生に同じことを言われていたものである.その“Schi-cht”,“Schicht”という言葉が耳にこびりついて,今また自分より20年も下の先生相手に,同じことを言っている.電気メスの良いものがなく,もちろんCUSAもレーザーもなかった時代,クーパーで切るか,結紮するか,剥離するか決めるのがすべてその“Schicht”だった.しかし20年たってもその言葉は小生の手術に生き,役立っている.どんなに時代が変わっても,人間のからだの仕組みや構造は変わらない.解剖学の本は何年たっても使えるから不思議だ.したがって,人の体にメスを入れ治療をしようとする限り,手術の原則というか「コツ」はあまり変化していくとは思えない.小生が教えた若い先生がまた20年後に同じことを言っているかもしれない.
一方で外科学のめざましい発展は,外科医に次々と難問を突き付けてきた.本来局所治療であり欠損治癒を伴うものであった外科手術の常識が許されなくなってきたのである.例えば,乳癌の手術.Halstedtの手術では,乳癌の組織だけでなくその近隣組織である大小胸筋とともに乳房を切断し,所属リンパ節をできるだけ郭清する.
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