外科医のための局所解剖学序説・6
胸部の構造 2
佐々木 克典
1
1山形大学医学部解剖学第1講座
pp.227-236
発行日 1997年2月20日
Published Date 1997/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407902651
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
大動脈弓にまつわるエピソードの中で,1938年Gross REが行った動脈管開存症の手術はその後に到来する絢爛たる心臓外科の始まりといっていいだろう.動脈管は肺動脈幹の頂点と大動脈弓をつなぐ管で,心嚢の外にあり胸骨柄の下縁にほぼ位置する.
Gross REの手術は,1938年8月26日,サイクロプロパン麻酔下で次のように行われた.“左の第3肋間に切開を加え,第3肋軟骨を除き,第3肋骨を引き上げた.左肺が下方に虚脱するにつれ,縦隔の外側がはっきりと見えてきた.大動脈弓と左肺動脈を被っている壁側胸膜を切開し目的の構造を直視下に置くと,直径7〜8mm,長さ5〜6mmの太い動脈管が見えた.心臓に指を当てた.全体に持続的な振戦があり,肺動脈に近づくと著しく増強した.聴診器では,ほとんどつんぼになりそうな持続的でほえ声に似た音が聴取できた.ちょうど密室に大量の蒸気が流れ込むような感じだった.No.8の糸を動脈管に回し,3分間締めて様子を見た.血圧は110/35から125/90まで上昇したが,循環障害は起きなかったので,完全に結紮することを決意した.動脈管は切り離すには短かすぎたので,結紮だけにとどめた.完全に締め付けると,振戦は消えた.肺を膨らまして胸を閉じた.”
Copyright © 1997, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.