臨床外科交見室
脳死問題に思うこと
仁木 基裕
1
1社会保険横浜中央病院外科
pp.1055
発行日 1995年8月20日
Published Date 1995/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407901948
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昨年の4月に臓器移植法案が国会に提出されたが,以来,審議入りのめどが立たないまま暗礁に乗り上げ等閑されている.この間,国内では,脳死移植の道が開かれないために末期肝疾患患者の親子間での生体肝移植が行われ,その数も140症例を越え,最近では血縁者同士の成人間の生体肝移植やABO血液型不適合間での生体肝移植が積極的に施行されている.その4年生存率は約80%と良好で,幸い提供者の死亡例はない.一方では,国内での治療の見込みがなく,国外での脳死臓器移植に救いの道を求める患者もあとを立たないのが実状である.いまや,脳死あるいは生体のいかんを問わず,移植医療は代替のない,社会的にも必要とされる治療であることは衆目の一致するところである.
しかし,わが国では,生体肝移植という生身の体から臓器を摘出し移植する危険をはらんだ,そのため欧米では一般に回避されている手術が定着・普及し,先進国はもとより,いまでは東南アジア諸国でも容認され,日常の治療体系としてすでに確立されている脳死臓器移植は受け入れられないという特異な風景がある.ではなぜ,臓器移植行為そのものは是認されるが,脳死になると拒絶されるのだろうか.脳死臨調の最終答申では,医学的に脳死をもって人の死とみなし,その脳死を「脳幹を含む全脳髄の不可逆的停止」と定義し,その判定はいわゆる竹内基準によって行うものとしている.
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