コーヒーブレイク
若者の死に思う
寺田 秀夫
1,2
1聖路加国際病院内科
2昭和大学内科
pp.1187
発行日 1999年10月15日
Published Date 1999/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542904206
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ここ数年の間に2人の若者が悪性腫瘍のために亡くなられ,医師としての無力さを痛感するとともに,この若い2人に対するご両親の深い愛情と彼らを囲む友人たちの暖かな友情に囲まれて青春を過ごしてきた若者の死が,治療に当たってきた自分にとって忘れ難い悲しい思い出となって今も心に残っている.
若者の1人は21歳の大学生.卒業を目前に迎え,就職も内定していた秋,1か月近い東南アジアの一人旅を終えて帰国後,高熱,全身倦怠感と疼痛を訴えて来院した.検査結果では強い貧血と血小板減少,LDHの著増,骨髄穿刺で血球を貧食する多数の組織球と印環細胞を認め,FDPの増加,フィブリノゲン・AT-Ⅲの減少などから,血管内凝固症候を伴った血球貪食症候群と診断し,緊急入院.その後上腹部エコー,腹部CT,内視鏡的逆行性胆膵管造影法(endoscopic retro-grade cholangiopancreatography;ERCP)などより,若年者には極めてまれな膵頭部癌の全身骨髄転移を確定診断された.頻回の赤血球・血小板輸血をはじめ苛酷な治療と絶え難い全身の痛みに耐えながら,入院2か月余で死亡した青年.廻診のたびに必ずベッドの側に立っておられるご両親,そして苦痛をこらえながら自分に笑顔を見せてくれた彼に,ある日「君は幸せだね,こんなにもご両親から愛されて」と話したら,こっくりうなづいてくれた顔が忘れられない.彼の死亡後,命日のたびごとに多くの友人たちがご両親の家に集まり,亡き彼を偲びながらお二人を慰めている様子を,毎年今日までいただくお母様からの便りで拝見し,医者として幸せを感じている自分である.
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