同心円状モデルで読み解く 新しい食道外科解剖・7
下縦隔領域の各論—経胸腔と経裂孔に共通した外科解剖を
藤原 尚志
1
Hisashi FUJIWARA
1
1東京医科歯科大学 消化管外科学分野
pp.1001-1013
発行日 2023年8月20日
Published Date 2023/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407214218
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Introduction
前回からのテーマである大動脈弓下領域(大動脈弓より尾側の縦隔領域)は,実は解剖学的な層構造の知見など知らずとも,手術手技だけを考えればあまり困らない領域かもしれない.極論すれば,しっかりした術野展開とカウンタートラクションを前提に,超音波凝固切開装置を片手に集中力を維持して剝離操作を続ければ,ほとんどの場合は何の問題もなく真っ白な術野で手術を進めることができる.反回神経をほぼ気にする必要がなく,操作のほとんどが筋膜に沿った剝離操作だからである.なかでも特に今回のテーマである下肺静脈より尾側の下縦隔領域に関しては,下行大動脈に沿って,心囊に沿って,剝離操作を進めれば通常,何も問題は起きないはずである.しかし,外科解剖とはただそれだけのものではない.
第6回でも触れたが,この下縦隔領域・腹側におけるVisceral layerとCardiac layerの間隙Spaceに沿った剝離層を見せてくれたのは2015〜2016年頃の大幸先生であった.これは,当時から「No. 111残し」とわれわれ(国立がん研究センター東病院レジデント)が勝手に呼んでいた手術手技である.現在はこの手技の郭清手技としての有用性はかなり限定的であると考えているが,このVisceral layerとCardiac layerの間隙Spaceが明確に示されたことは,私自身の中では非常に意義深く,外科解剖を考えるうえで大きな転換点になった.
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