同心円状モデルで読み解く 新しい食道外科解剖・8
気管分岐下領域の各論—中心は食道
藤原 尚志
1
Hisashi FUJIWARA
1
1東京医科歯科大学消化管外科学分野
pp.1261-1271
発行日 2023年10月20日
Published Date 2023/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407214272
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Introduction
今回と次回で気管分岐部の周辺(気管分岐下領域および気管気管支角領域)の解剖を解説する.食道癌手術において最も危険な領域は,この気管分岐部の周辺であろう.大動脈弓から下肺静脈までの領域は大出血のリスクがあり,また気管分岐部から主気管支にかけては気道損傷のリスクがある.上縦隔郭清ばかりが注目されがちな食道癌手術であるが,今回と次回で扱う気管分岐部周辺をいかに安全に,確実に切り抜けるかが,手術成績に大きく関わるように感じている.逆に言えば,この気管分岐部の周辺の郭清の精度こそが,経胸腔手術の価値であるとも言えるかもしれない.下肺静脈以下の下縦隔領域は経裂孔的郭清で十分な郭清が可能である.また,頸部から大動脈弓までの上縦隔も縦隔鏡アプローチで精度の高い郭清が十分に可能である.しかし,気管分岐部の周辺領域は,間違いなく経胸腔手術が最も優れている領域である.
この領域を扱う難しさの一つが,解剖理解の難しさ,特に層構造がどのようになっているのかという難しさである.これまで解説してきた縦隔の外科解剖は発生学に基づく左右対称性・同心円状構造を基本原則としてきており,気管分岐部周辺にも当然その原則は当てはまる.
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