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プレシジョン・メディシン(precision medicine)は2015年のオバマ米国大統領の演説で公になった.プレシジョン・メディシンとは,患者や病気の遺伝子情報をベースに患者個々人に最適な医療を提供する個別化医療を指しており,この医療を国として推進していくという内容であった.遅れること4年,令和元年の到来とともに,日本においても遺伝子パネル検査を基軸としたがんゲノム医療が公的に開始された.第3期がん対策推進基本計画にがんゲノム医療の推進が掲げられ,がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院・がんゲノム医療連携病院を中心に,トップダウンで遺伝子パネル検査を用いる医療体制が構築されたのである1).
このような医療が世界的な潮流となった背景には,がん細胞のもつドライバー遺伝子異常に対する特異的かつ効果的な分子標的治療薬が開発されてきたことが挙げられる.分子標的治療薬には剤形により小分子化合物と抗体薬があり,前者はおもにドライバー遺伝子異常の機能阻害を,後者は遺伝子異常の結果として生じるタンパクの過剰発現を標的とする免疫賦活などを機序として,がん細胞に細胞死を誘導する.ドライバー遺伝子異常に紐づく分子標的治療薬の開発には信頼性の高い診断,いわゆるコンパニオン診断が必要である.多くのドライバー遺伝子異常は相互排他的に生じるため,肺がんなど複数のドライバー遺伝子異常が報告されているがん腫においては,一つのコンパニオン検査が陽性となるまで,複数回のコンパニオン検査を連続して行う必要があった(図1).このことは貴重な検体を消費していくことになり,わずかな生検材料の枯渇を生む.また,検体の補充のために頻回の侵襲的な検査の負担を患者に課すことになる.最近,コンパニオン診断としての遺伝子パネル検査が保険収載されたが,これはこのような検体の浪費を抑制できる一方,実際はしなくてよかったかもしれない検査を自動的に行うこととなり,患者負担を増やしているという側面もある.
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