昨日の患者
空舞う白鳥に想う
中川 国利
1
1宮城県赤十字血液センター
pp.1243
発行日 2018年10月20日
Published Date 2018/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407212195
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- 文献概要
宮城県北部には野鳥の越冬地として有名な伊豆沼や蕪栗沼が存在し,秋になるとシベリアからたくさんの白鳥やガンが飛来する.そしてわが家には,「今年も白鳥のお蔭で美味しいお米ができましたので,食べてください.Iの娘より」と書かれた手紙が添えられ,美味しい新米が届く.
Iさんは10年ほど前に受け持った,60歳代後半の胃癌患者である.胃切除術を行ったが,1年半後に食欲不振となり,さらには腹水で腹が膨れ,嘔吐も生じたため再入院した.しかしながら「夫と同じ胃癌になり,そして同じようにお腹が腫れ,吐き気も生じます.しかし若くして逝かざるをえなかった夫の苦しみと比べれば,まだまだ軽いものです」と,明るく振る舞った.実はIさんは30歳代後半で夫を胃癌で亡くしたが,義理の両親とともに農業を引き継ぎ,一人娘を育てた.そして母親思いの娘は婿養子を迎え,亡き父親に代わり母親を支えていた.
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